ドドッと突き上げるような揺れに(ついに来たか)と身が縮まるが、(すぐに収まるだろう)という楽観もある---。
地震が起きる度、こんな感情に揺れている人は多いだろう。3・11から1年以上が過ぎても日々地震が頻発し、特に東京では「いつ起きてもおかしくない」と首都直下地震のリスクが叫ばれている。しかし、その警鐘を切迫感を持って受け止めている人はどれだけいるだろうか。
首都圏の直下を震源とするM(マグニチユード)7級の地震が起きる確率について、昨年9月に「30年以内に98%」と計算した東京大学地震研究所などの研究チームが、その確率が「30年以内に70%」に修正されたと発表したのは5月24日のことだ。最初の計算は昨年3月11日を起点とし、昨年9月までの地震を分析していたが、修正データでは昨年12月31日まで期間を延ばして分析。その結果、首都直下地震発生のリスクが減じたという。
このニュースに触れて胸を撫で下ろした人も多いのではないか。そうでなくても東日本大震災から1年以上が経ち、少しずつ危機感が薄れていくのは仕方ないのかもしれない。しかし、その油断は命取りになりかねないのだ。
武蔵野学院大学特任教授(地震学)の島村英紀氏は、「そもそも予測不能な直下地震の予測数値に一喜一憂するのはナンセンス」と断わった上で、「首都直下地震発生の確率は高まっている」と警告する。
「日本で起きる地震には『海溝型地震』と『直下地震』の2通りがあります。日本列島の下では北米プレート、太平洋プレート、フィリピン海プレート、ユーラシアプレートの4つのプレート(岩盤)が押し合っており、その衝突のエネルギーによって起きるのが海溝型地震です。
その4つのプレートが地下で交差していることから、地震学上、東京は〝最も危険な都市〟と言えます。海溝型地震のMは8クラスで、発生する場所が分かっており、比較的予想が立てやすいとされていますが、直下地震を予測することは不可能です。プレートの衝突で直接引き起こされるのではなく、それによって生じる〝ねじれ〟や〝ゆがみ〟のエネルギーが大陸の下で発散するのが直下地震であり、それがどこで起きるかは分からない。ただし、関東近郊では地殻の力バランスが狂って東日本大震災の余震ではない地震が頻発し、震源地も海から陸地に移っていることには要注意です」
東日本大震災の影響で首都園の直下には相当のゆがみやひずみのエネルギーが生じており、首都直下地震のリスクは非常に高いと言うのだ。
炎の竜巻に飲みこまれる!
首都直下地震の発生について、京都大学都市社会工学専攻の藤井聡教授も次のように警告する。
「歴史的に見れば、首都圏ではM6.5~8クラスの地震が30~50年毎に起きています。1923年の関東大震災(M7.9)まではかなり定期的に揺れていたのに、首都圏では大きな地震が来ないまま約90年が過ぎているのは不気味です。そして、特に危惧されるのが、東日本大震災のように三陸沖で発生した海溝型地震との連動性です。三陸沖では過去2000年間に巨大地震が4回発生していますが、その前後10年に首都直下型と見られる大地震が必ず起きている事実があります」
藤井氏の指摘をまとめると、下記のようになる(○は三陸沖で起きた地震。●は首都圏で起きた地震)。
○869年、貞観地震(M8.3~8.6)
●878年、相模・武蔵地震(M7.4)
○1611年、慶長三陸地震(M8.1)
●1615年、慶長江戸地震(M6.5)
○1896年、明治三陸地震(M8.2~8.5)
●1894年、明治東京地震(M7)
○1933年、昭和三陸地震(M8.2~8.5)
●1923年、関東大震災(M7.9)
藤井氏が解説する。
「少なくとも過去2000年間の記録を見ると、三陸沖の巨大地震と首都圏の大地震は連動している。『だから今回も起こる』と早計には言えないが、この歴史的事実は強い説得力を持っています」
今この瞬間、あなたの〝真下〟を震源とした大地震が起きる---そんなシナリオにも現実味があるということを肝に銘ずるべきだろう。