西武、躍進の裏に投手陣の充実あり 13連勝中、先発が12勝と駒揃う

中島大輔

強力打線を持っていても勝てない!?

西武の十亀は6月にプロ初の月間MVPを獲得するなど、雄星、ウルフに続く先発3番手として台頭してきた 【写真は共同】

 怒涛の13連勝が止まった直後、埼玉西武の辻発彦監督は誇らしげに言った。

「こういう試合ができるなら、若い選手が伸びるって。こんな試合したら、絶対強くなる」

 8月5日、60年ぶりとなる14連勝を懸けた福岡ソフトバンク戦では8回表までに1対7とリードされたものの、最後の2イニングに粘って同点に追いついた。延長10回に敗れはしたが、「向こうに恐怖として、“油断できないぞ”と感じさせたでしょ?」と指揮官が振り返ったほどの底力だった。

 なぜ、あんなに強力な打線を持ちながら勝てないのか――。

 今季途中までの西武を振り返ると、そう指摘されることが少なくなかった。実際、リーグ1、2位の安打数を積み上げてきた秋山翔吾と浅村栄斗、リーグ2位タイの24本塁打の中村剛也、2014年本塁打王のメヒア、さらに足でかき回す源田壮亮と金子侑司もいる(成績は8月7日終了時点)。そうした打線は山川穂高、外崎修汰の台頭で厚みを増し、ここに来て投手陣とかみ合ってきた。

 投手陣が打たれれば打線がカバーし、攻撃で苦しめばピッチャーがカバーする。3日の東北楽天戦でハーラーダービートップタイの11勝目を挙げた菊池雄星は、打線との相乗効果をこう話している。

「粘っていれば必ず点を取ってくれるという安心感があるので、とにかく先制点さえ取られなければいい流れで行くんじゃないかとピッチャー陣は思っていると思います。先発に勝ちがつくのは僕ら(先発陣)にとってもすごく励みになるし、気持ち的にも上向いていくので、いい勝ち方ができていると思います」

プロ初の月間MVP・十亀の貢献大

 開幕から菊池、ウルフが先発陣の軸として勝ち星を重ね、勝ちパターンのブルペン陣が着実に仕事を果たす一方、先発3枚目以降が課題だった。その一人である十亀剣は4連敗を止めた6月1日の広島戦の後、「僕や雄星、野上(亮磨)がしっかりやらないと、チームが上を向いていかないと思います」と話している。

 ここに来て西武が浮上するうえで、十亀の貢献は大きい。今季初登板は4月27日のオリックス戦と先発“6番手”の位置付けだったが、6月に3勝を挙げて自身初の月間MVPを受賞。オールスター明けにはカード頭の火曜日を任されていることからも、首脳陣の信頼がうかがえる。

「例年、(試合によって調子が)100%もあれば0%もあるなか、今年は80(%)くらいをずっとキープして投げられています」(十亀)

 そうしたピッチングの生命線になっているのが、インコースへのストレートだ。スリークオーターとサイドの中間くらいから投げ込まれるストレートはリーグ屈指の球威を誇る一方、昨季までは内角に投げ切れず、真ん中から外よりのボールを痛打されることも少なくなかった。

 しかし、「僕はインコースに投げないときつい」と8月1日の楽天戦を勝利したように、気持ちの持ち方を変えたことで今季は攻めの投球ができている。緩急をつけるカーブ、パワーシンカーのような軌道を描くシュート、そしてスライダーが生き、11年ドラフト1位右腕は一皮むけつつある印象だ。

「雄星はもちろん、僕とかが長いイニングを投げられれば、チームにとってプラスになります。そろそろ6回100球は卒業して、もう1イニング投げられるような投球をしていかないといけない。それが来年以降のステップアップにもつながると思います」

多和田が高めを有効的に使って3連勝

 もう1人、先発陣に厚みと勢いを加えているのが多和田真三郎だ。大卒2年目、ローテーションの中心と期待をかけられた今季序盤は期待に応えられなかったものの、1軍昇格した6月末以降は5戦3勝を記録している。

「バッターから『高めのボールが打ちづらい』と聞くので、そういったところを強みにしてやっていければと思います。高めを有効に使ったら、自ずと低めの球の見極めもしづらくなるので」と心掛けるように、低い重心から浮き上がるような軌道で投げる球は打者にとって厄介だ。大小の曲がりを使い分けるスライダーを効果的に織り交ぜることで、ストライクゾーンを大きく使って持ち味を発揮している。

 さらに、経験豊かな野上が確実に試合をつくり、13年のクライマックスシリーズで好投した岡本洋介も控えている。13連勝中、先発に勝ちがついたのは実に12回。開幕前、枚数の足りていなかった先発陣はここに来て揃ってきた。

 真夏の大型連勝でソフトバンク、楽天の背中が見えてきたなか、9年ぶりのリーグ優勝を懸けたシーズン終盤の戦い、そしてポストシーズンを勝ち抜くには、菊池、ウルフ以外の先発陣の奮闘が不可欠だ。

 西武の快進撃がどこまで続くか、そのカギは先発第3の男が握っている。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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