「学食」に注目。聖心女子大学に学ぶ、食品ロス削減のヒント

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世界で捨てられる食品の量は、食料生産量の3分の1にあたる約13億トン。これは日本人1人あたりに換算すると、お茶碗約1杯分(約136g)が毎日捨てられるのと同じことだ。このままのペースでいくと、2030年までに30%も食品廃棄が増えると予測されている。いま、さまざまな企業や団体がこうした食品ロスの現状を受け、アクションをし始めている。

まずは身近なところに目を向けようと、「学食」の食品ロスゼロに挑戦しているのが、聖心女子大学の学生団体、Earth in Mindだ。Earth in Mindは、「サステナブル」や「エシカル」をキーワードに学内外で活動している団体である。聖心女子大学は、日本で女子大初の試みである「気候非常事態宣言」を表明した大学でもあり、積極的にキャンパスのエコ化を進めている大学でもある。

Earth in Mindのプロジェクトは、2020年10月から2021年1月にかけて環境省と株式会社コークッキングが共同で開催した「“No-Foodloss!”Youth Action Project」から始まったものであり、最終報告会では「オーディエンス賞」を受賞している。Youth Action Projectは食品ロス削減につながる活動に取り組む学生を募集し、その実現を応援するものだ。

「まだ食品ロスゼロは達成できていませんが、ゼロになるまで行動し続けます。」

そう話す、学食の食品ロス削減に取り組むEarth in Mindのみなさんに、同プロジェクトについて、そして他大学や企業の食堂などでも活用できる、食品ロスゼロに向けてできるアクションのヒントを聞いた。

大事なのはリデュース。そもそも食品ロスが出ないように

今回Earth in Mindが参加した環境省のプロジェクト「“No-Foodloss!”Youth Action Project」は、食品ロス削減につながる活動や事業に取り組みたい全国の学生が、3か月後の最終報告会に向けてアクションを起こしていくプロジェクトだ。

同プロジェクトに参加したEarth in Mindが軸にしていたのは3Rの中の「リデュース」、そもそも食品ロスが出ないようにすることだ。そこで、まず調査したのが「調理前」に出ているごみの量。

学食の職員への取材では、調理前に食品ロスが出ない工夫が、すでにあらゆるところで実施されていることがわかったという。野菜はなるべく長期保存を可能にするために冷凍のものを使うこと、野菜や肉は2日前までキャンセル可能なため、直前に天候などを考慮して発注量の調整を行うこと、そして販売予定数よりも少なめに調理し、必要な場合のみ後から追加するなど、臨機応変な対応がされていた。これらの学食の方々の努力により、賞味期限切れなどで廃棄される調理前のごみは、既にゼロであったという。

そこでEarth in Mindが今回のプロジェクトで中心的に取り組んだのが、「調理中」と「調理後」に発生する食品ロスの削減である。

食べ残しはほぼ「お米」。まずはお米を残さない工夫を

「調理中」と「調理後」の食品ロスを把握するためにEarth in Mindが次に行ったのが、学食利用者103名へのアンケートの実施とごみの調査だ。アンケートの結果、ご飯の食べ残しをしている人は配膳時に学食スタッフの方とコミュニケーションをきちんと取れていないということが判明したという。さらに、ごみの調査によって、現在出ている食べ残しの全体の約70%は「お米」が占めていることがわかった。

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環境省によるごみの分類方法に従って分けたごみ

そうした事前調査を経てEarth in Mindが始めたのが、お米を残さないための2つの施策だ。聖心女子大学の食堂では、実物の料理をサンプルとして出していたため、それが後に食品ロスとなっていた。そこで、サンプルではなくモニターを学食に導入。サンプルの食品ロスをゼロにするだけではなく、注文する際に学生が量を認知しやすくした。そして二つ目に、注文方法の変更だ。学生の行動変容を促すために「たべきりん♪」という名前のキャラクターを用いたポスターを作成することで、イメージを持ってもらいやすくした。

導入したモニター

導入したモニター

注文方法の変更を行った

注文方法の変更を行った

調理くずに関しては切り方の意識・工夫で20%の食品ロスが削減。さらに、サンプルの食品ロスもゼロとなった。しかし、食べ残しに関しては大きな減少傾向は見られず、実施途中で利用者アンケートを行ったところ、半数以上が行動に移っていないことが判明したという。

それを受けて行った新たな施策が、学食職員の方のインタビューや食品ロスの現状などを書いた食堂新聞を食堂のテーブル上に掲示することだった。「受け取り時に量を伝える意義」を書くことで、「なぜ食品ロスを削減する必要があるのか」「学食の方々がどんな想いで学食を作っているのか」を理解し、学生が食品ロスを意識できるようにした。今後、調理くずに関してはコンポストも導入予定だという。

学食に貼った新聞

学食に貼った新聞

期間の「制限」があったことが、モチベーションに

今回の取材でお話を聞いたのは、Earth in Mindチームメンバーである田坂さん、杉本さん、林さん、松本さん、そして今回のプロジェクトのメンターであるクックパッド株式会社コーポレートブランディング部部長の横尾さんである。

Q. 今回のプロジェクトを始めたきっかけを教えてください。

田坂さん: この食品ロスのプロジェクトに関わり始めたとき、メンターの横尾さんと一対一でお話しした際にこの問い聞かれて初めて、改めて考えたんです。私は食べることが好きなので、学食を利用したときはいつも空のお皿を返すだけなんですが、横には自分で食べ物を捨てるごみ箱が用意されていました。そこには食べ物が山ほど捨てられていた。みんな食品ロスに対して、罪悪感は感じているはずなのに、見て見ぬ振りをしてしまっている状態でした。そうした、ちょっとした違和感や罪悪感は実はちょっとではなくて深掘りするとすごく大きな問題だということに気づいたんです。

杉本さん: 去年の春休みに大学の方に学校内でどんなごみがどのくらい出てるのかを伺ったところ、プラスチックごみの次に食品ロスが多かったというのも理由のひとつです。

Q. 今回のプロジェクトを進める中で大変だったことはなんですか?

田坂さん: ステークホルダーの方々がかなり多かったので、提案から実現するまで、時間がかかりました。プロジェクトの期間も3か月と限られていましたし、せっかくメンターの方もいらっしゃってアドバイスもいただける貴重な機会なので、期間内にどれだけ結果を出せるかという焦りもありました。学校は取り組みにすごく積極的で、提案書自体は提出したりするとすぐ見を目を通してくれて「いいですね」と反応してくれたのですが、実際にそれが動きだすとなるとやはり様々な手続きや説明が必要でした。そうした事務手続きに関しては、大学という大きな組織ならではの苦労がありましたね。

Q. 今回、3か月でここまで進められた理由はなんだったと思いますか?

横尾さん: メンター視点で見ると、やはり最初の一歩を踏み出すことが大切だと思います。一歩踏み出したら、後はもう進むしかない。このプロジェクトには時限爆弾がついていて、後に発表会が用意されていてそれまでに結果を出さなければいけなかった。それがモチベーションになり、行動のきっかけとなっていたのではないでしょうか。

学食に設置したメッセージ

学食に設置したメッセージ

作った仕組みを、他大学でも応用できるように情報公開

Q. プロジェクトに対してどんな声がありましたか?

杉本さん: ゼミの友人が学食を使ったときにプロジェクトの存在を見つけて、声をかけてくれました。そこからいろんな人に広めてくれていたのが嬉しかったです。プロジェクトによって、食品ロスに関する意識が広まっている感覚がありました。

林さん: 私の友人はあまり環境問題に興味を持っている子が少なかったこともあって、実際に行動を移してくれるのは難しいことだなとも思いました。

田坂さん: 私も、もともと関心がない子にアンケートの回答をお願いするために連絡をとったときに「どうしたら食品ロス減らせると思う?」と聞いてみたところ、「金銭的なお得感がないと動けないかな」と教えてくれた子もいました。大学内でも人によって意識の差はあるなと思いました

ごみの分別

Q. 学食の「食品ロスゼロ」を達成するために、今後進めていきたいことを教えてください。

田坂さん: コンポストの導入を、まずは実現させたいです。あとは、今回の活動を他の大学で広めたいと思っています。今回のプロジェクトの情報は全てnoteにまとめています。調査時に環境省からいただいたごみの分類のカテゴリー分けのシートや、アンケートなどの質問項目をダウンロードできるようにしています。「私たちがプロジェクトを始めるときに欲しかったもの」がまとまっているので、ぜひ参考にして始めていただけたら嬉しいです。

松本さん: 「なぜを深掘ること」が大切だと感じ、学食職員さんへのインタビューも、質問する内容を全て書き出し、その横に「なぜその質問をするのか」という質問の意図も書き出しました。行動する前に、なぜその行動するのかを理解することがとても大切です。アンケートでは、そうしたところも書いてあるので、参考に見てみてほしいです。

Q. 最後に、今回のプロジェクトからの学びを教えてください。

林さん: 仮説を立てて実験をする、PDCAを順序立ててやることがとても大切だなと思います。これまで、あまり仮説通りにやるのが得意ではなかったので、最初は「こんなにできるのかな」と、不安でしたが、順序立ててやることで、少しずつ進んでいくことができました。

杉本さん: 「一歩行動すること」の大切さを学びました。今まで、先の先まで考えすぎてしまうのが自分の癖で、結局何もしないで終わってしまったことが多かったんです。でも、いざやってみるとハードルはありましたが、それでも進んでいくことで、関わってくれる人が増えていき、相手も「これをこうしてみたら?」「こうするといいよ」とどんどん深く関わってくれるようになりました。うじうじ悩んでいないで、やってみることが大切ですね。

編集後記

「プロジェクトを始めた当時のマインドセットと比べて、変わったのが『出てもしょうがない』を『ゼロにできる』と信じることである」と、メンターの横尾さんは話していた。信じ抜くことの大切さを、Earth in Mindは忘れなかった。

また、今回の環境省のプロジェクト「“No-Foodloss!”Youth Action Project」でEarth in Mindが、メンターや参加した学生団体から高い評価を受けていた理由は、PDCAサイクルをうまく回していた点にある。現状把握をした上で施策を計画し、実行していくことで、軸をぶらさずに常にプロジェクトを前に進み続ることができていた。

そうしたメンバーの「本気度」が、関わる人々に伝わり、結果的に多くの人の心を動かしたのだと思う。まだまだ「ゼロ」に向けてアクションを起こし続けるEarth in Mind。聖心女子大学の食堂から始まったこの取り組みが、全国の大学へと広まっていくのが楽しみだ。

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