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岡本隆史

「サッカー人生を通じて、世界を変える切符を手にした」本田圭佑32歳の目指す進化

2019/05/27(月) 08:00 配信

オリジナル

本田圭佑、32歳。サッカー選手、監督、経営者、投資家――いくつもの顔を持つ。今、何を目指し、どう日々を過ごして、どんな未来を思い描いているのだろうか。オーストラリア・メルボルンで、胸中を聞いた。(インタビュー:古田清悟/構成・文:Yahoo!ニュース 特集編集部/撮影:岡本隆史)

サッカー人生で手にした「切符」

「32年生きてきて、何かを変えられたかといえば、何もやってない。ようやく何かを変える切符を、サッカー人生を通じて手にしたと僕は思ってるんです。サッカーに感謝しないといけない。サッカーで頂点を目指して、その結果、世界を変えたいと思って。引退間近になって、切符を手にすることができた。一番のプレゼントをもらえたという感覚でいます」

2019年5月現在、オーストラリアA リーグのメルボルン・ビクトリーFCでプレーしながら、カンボジア代表を実質的監督兼GMとして率いている。国内外で約70校のサッカースクールを展開し、世界各国でサッカークラブの経営にも関わる。2018年にはウィル・スミスと共同で投資ファンド「ドリーマーズ・ファンド」を設立した。

本田圭佑とは、何者なのか。そう尋ねると、本田は少し考えて語り出した。

「もちろん人間で、地球人で、宇宙人。サッカー選手であり父親であり、教育者であり、商売人でもある。いろんなタイトルが付いてますけど、定義するなら“生命体”だと思っています」

「生きてきた年数分、知識が増え、経験を重ね、自分の意志が広がってきた。できることが年々大きくなっている。でも、人生100年時代って言われても、たった100年しかないんですよね。地球が46億年前にできたと考えると、100年ってものすごく短い。その間に知ることができることって、宇宙規模で考えたら本当にはかない。それでも死ぬまで学び続けたいっていう考えのもとに、日々勉強しています」

18歳でプロデビュー。世界を舞台に活躍してきた。サッカーにビジネス、精力的に挑戦を続けるが、本人いわく「何もやってない」。そう思うのは、なぜだろうか。

「自分が何かを変えられるなんて大それたことはホントに思ってなくて。あまりにも世界が広すぎるし、宇宙から見たら世界自体が小さいかもしれない。100年の間に解決できるものなんて、どれだけあるんだって。人が『あいつは〇〇を変えた』と言ったら変えたってことになるのかもしれないけど、それはしょうもない話。人の評価じゃなく、自分が納得したいと思ってるので」

自分自身について、こう分析する。

「誰もやったことないような、インパクトのあることが好き。自分にそういう部分があることを、ラッキーやなって思ってる。自分の弱さはかっこつけるところ。自信ないシチュエーションであればあるほど、かっこつけてるなって。大きく見せたりとか、見えを張りたいみたいになってる時は嫌ですね。本音はいつも等身大でいたい」

成功にこだわるな、成長にこだわれ

多忙な毎日をどう過ごしているのだろうか。

「時間で言うと、サッカー5、ビジネス4、プライベート1って感じですね。もう少し家族とか、プライベートな時間があるべきなのかもしれないんですけど、うまくタイムマネジメントできていない。難しいですね。時間って敵ですよ。年末とか、やばいなと思います。もう年が明けるのかって。時間の経つスピードが速すぎる」

「朝方に夢を見るんですけど、夢をコントロールできるところがあって。これ、僕だけじゃなくて、『分かる分かる』っていう人がおると思うんですけど。タスクの整理を夢の中でし始めたり。例えば、サッカーで『こういうプレーを伸ばせばもっといい選手になれる』という課題があったら、トレーニングプログラムを整理したりとか。整理終わったから、そろそろ起きようかな、みたいなもんです」

そうして目覚めると、朝は英語の勉強をする。

「大体2時間くらい。これを言うと、僕の英語がすごいと思われるじゃないですか。めっちゃしょぼいんで、それだけちょっと言っておきます。習得スピードが、ほんま人より要領が悪いんか、頭悪いんか分かんないですけど、遅いんです。人の倍やらなあかんっていうつもりで頑張ってるんですけどね。今の僕の英語力では、ビジネスを英語でやるためには不十分。物事を前に進めていって、ビジネスを設計して、交渉して、利益を生み出す方向に持っていかないといけないわけで」

何であれ、始めたことを「続ける」秘訣はあるのだろうか。

「まず一つ大事なのは、目標が大きいこと。しっかり明確で、大きいことが大事なんです。もう一つは、それを達成するという覚悟が決まっていること。この二つが定まっていれば、どんな難しい局面も乗り越えていけるんじゃないかっていうのが、僕の考え方ですね」

困難に直面した時や落ち込んだ時は、どう立ち直るのか。

「その時は、完璧主義を捨てる。ダメージを受けてる時に完璧主義を維持すると、マイナスにしかならない。乗り切るには、開き直るんですよ。完成度の高さを捨て、ハードルを下げていいんで、とにかく前向きに、その状況をドライブすることにフォーカスする。質とか点数にこだわらない。僕がいつも言ってるのは、結果にこだわるな、成功にこだわるな、成長にこだわれ。なぜなら、絶対にやったら成長はするので。成功はまた別問題」

60億人にアプローチしたい

本田は今、「AFRICA DREAM SOCCER TOUR」と銘打ち、ケニア、ウガンダ、ルワンダで、子どもたちの“夢”を支援している。夢、シンボルとなるプロサッカークラブの運営を開始。「モノよりもまずは機会の提供を」というコンセプトのもと、現地の学校などと提携し、日本人コーチによるサッカー指導を無償で実施する。才能が認められれば、男女問わず、プロを育成するサッカーアカデミーに推薦され、入団することもある。企業と協力して工場見学を実施するなど、サッカー以外の選択肢を見つける機会も設けた。

世界各地で活動するなかで、気付いたことがある。

「ハングリー精神って、コミュニティーの中の相対的な貧しさによって手にできるものなんです。カンボジアやウガンダに行って思うのは、貧しいんですけど、大半の子はハングリーなタイプじゃない。絶対的な貧しさはハングリー精神につながらないんです」

「『FACTFULNESS』という本を読んで。今まで僕たちは先進国・後進国とか、二極化する言い方をしていたけど、この本では、四つのカテゴリーに分けてて。レベル1は1日あたりの所得が2ドル以下の人。貧困層です。レベル2は2~8ドル。レベル3は8~32ドルで、貧困を脱出している人。日本はレベル4の32ドル以上です。レベル4って、10億人くらいなんですね。Instagramのユーザー数が10億人突破したっていっても、ほとんどこのレベル4の人たち。60億人、まだいるんですよ。ここを意識したらもっと面白くできる。60億人にアプローチできるようなプロジェクトに関わりたいと僕は思ってるんですよね」

「サッカーで世界に出てから、自分の思考の幅が広がった」と言う。

「(若者には)リュックサック持って海外に出ろと。1年ぐらい帰ってくるなと。そうすると、1年後の日本が違った世界に見えるし、人生を豊かにできるんじゃないかなと僕は思います。日本だけにいると、どうしても視野が狭まってしまう。もし行けなくても、世界に目を向けるだけでも、自分が置かれている状況を違う視点で見られる。例えば月収20万円で生活していけないって言うけど、『生活はできる』わけです。ぜいたくができない。『生活ができない』というのは、餓死するんです。視野を外に向けてほしい。ネットで調べてみるとか、外国人の友達と話して、そいつの国のことを聞いてみるとか、何でもいいんですよ」

話は、宇宙まで広がっていく。

「今、人類は試されていると思っていて。まだ人間が把握できてない何かから。それを宇宙人と呼ぶのかはおいておいて、何者かに管理されている可能性はあると思ってて。スコアリングされてるんですよ。人口がものすごく増えたり、そもそも人類が地球を支配するということ自体が予想に反しているかもしれない。自然や動物を保護するとか、そういう考えは、人間が宇宙を意識して、本気で宇宙に行こうとし始めたからこそ生まれたんじゃないかと思ってて。自分のことだけを考えてると駄目だという段階に到達し始めたんだと」

幸せを感じる瞬間は、愛

「尊敬する人」はたくさんいるという。まず名前を挙げたのは、マハトマ・ガンジーだ。

「ガンジー、何回も刑務所入ってるんですよ。インドがイギリスの植民地で、インド人のために立ち上がって独立させたわけです。その過程で、反逆者として刑務所に入れられている。俺やったらびびってできひんな、みたいなことが多すぎて。自分の命とか惜しくなかったんかなとか。いつ死んでもおかしくないっていう覚悟でやってたと思うんですよね」

「影響を受けている歴史上の人物は、『三国志』に出てくる曹操孟徳(そうそうもうとく)。幼少の頃から読んでて、たぶん無意識に真似してるところも結構あって。指揮官として、プレーヤーとして、両方すごい能力を持ってるというイメージが、憧れで。僕が選手やりながらカンボジアの監督やってるのも、無意識ですけど、パクッてたんかなとか」

本田自身は、どんな時に幸福を感じるのか。

「愛ですね。幸せを感じる瞬間は、そこに愛という空気が流れてる時。誰とでもいいんですよ。平和ということでもある。その空間に安全、平等が保障されていること、自由であること。何かを達成した時の幸福って非日常なので、人生に何度あるかっていう話。幸福って日常で、誰もが手にできるものやと僕は思ってるんで。信用できる人と一緒にいられると、幸福が生まれる。思いやり、リスペクトがないのは嫌ですね。それは人間にとって大事な要素じゃないかと思います」

「進化し続けろ」

ここ数年、積極的に投資活動を行っているという。「大きく挙げるなら、AIやブロックチェーン」。

「よく、AIが人の仕事を取るんじゃないかって言われてますよね。実際起こりうると思うんです。進むスピードは速くて、もう止められない。遺伝子、バイオ系もそうだし、100年前では考えられないものが生まれてきて、すごい進化を遂げている。その時に自分が生きている。投資家として、その事業に携われている。何気なく商売してるんじゃもったいないなと思っていて、意義のある人生にしたい」

大事にしている価値観として、「進化」を挙げる。

「ゆっくり進化してるようじゃ置いてかれると思います。進化することを強く意識しないとついていけないくらい、すごいスピードで進む世の中になってる。矛盾するようですけど、僕は『頑固』もシチュエーションによって大事やと思う部分もあるんです。若い世代って、進化能力は高いけど、頑固能力は低かったりする。おまえ、そこ、一回口に出したんやから、もう少し頑固さ貫けよ、って。でも頑固だけじゃ絶対無理で、環境に順応していくことが求められていくと思います」

「僕自身にも言い聞かせてるのが、『進化し続けろ』。人間はここまで進化し続けて生き延びてきた。人間中心に物事を考えてしまうんですけど、人間が主役の時期なんて、(地球の歴史から見れば)ほんの一部なんですよ。今後、人間が地球を牛耳っていられる保証なんてないんです。ライバルはロボットかもしれないし、自然災害かもしれないし、宇宙の敵かもしれない。要は学んで進化し続けること」

インタビューの最後に、座っていた「RED Chair」に自由にペイントしてもらった。本田が選んだ言葉は「任侠」。「弱きを助けて強きをくじく。僕の人生の考え方の一部になっている。今ビジネスをやっているのも全て、サッカーできるチャンスのない子どもたちがサッカーをできるように、というところからスタートしたんで。これを忘れずにやりたいという思いも改めて込めて、この言葉を選びました。(字は)汚いけど、愛があっていいんじゃないかな」

本田圭佑(ほんだ・けいすけ)
1986年、大阪府生まれ。イタリアの名門ACミランをはじめ、オランダ、ロシア、メキシコ、オーストラリアなど世界の強豪チームで活躍。2018年8月からはカンボジア代表の実質的な監督も務めている。

ヘアメイク:林 勲
スタイリング:近藤 昌

【RED Chair】
常識を疑い、固定観念を覆す人たちがいます。自らの挑戦によって新しい時代を切り開く先駆者たちが座るのが「RED Chair」。各界のトップランナーたちの生き方に迫ります。


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